#石油王が腐男子だったら むにうさリレー小説

#石油王が腐男子だったら

とつぜん始まるツイッターリレー小説です。
打ち合わせは最初だけなので起承転結は気にしない。
お互い好きなように書いてますが、割とまとまってるw(自画自賛)

全41ツイート

 

うさ
うさ

ネットで情報を集め、本を買いまくって(紙本は日本在住の従者が買い集めて送ってる)、慣れない日本語で推し作家さんにお手紙も書いているけれど。嗚呼書ききれない。溢れる尊い。

やっぱり池袋。アニメイト。聖地コミケも、庭も行きたい。スペースまで伺ってご挨拶したい。

 

むに
むに

思い立ったが吉日、プライベートジェットで日本に飛び、池袋に降り立った石油王。 従者にリストを渡して買い物を頼み、好みのサークルを周り会話を楽しむ。なんて幸せな時間なんだ! お話の後は従者が国の高級菓子を配るのも忘れない。郷にいれば郷に従うものだ。

 

うさ
うさ

スペースの配置図に色をつけ、効率よく歩き回る。

にもかかわらず、島の真ん中にあるサークルだけは、一番最後に足を向けた。近づくにつれて心臓が早鐘を打ち、呼吸が苦しくなって、調整用スペースの前で足を止めて深呼吸。

目指す先のスペースは、シンプルなあの布に、新刊、既刊がただ積まれている。

 

 

むに
むに

ここは石油王の最終目的地、最推しのいるサークルだ。そこには黒髪にメガネの青年が肩を丸めて座っていた。周りのキャッキャと騒ぐ空気とは違い自分だけの世界を作っている。

ここが、ココこそが私の聖地だ!

勇気を出して一歩踏み出し、重なっている新刊の前に立つ。

 

 

うさ
うさ

「全部ください!!!!!」

緊張して自然に締まってくる喉に抗い、腹に力を込めて発声したら、周囲の人が振り向く音量になった。

青年も目を丸くしたが、すぐ優しい笑みを浮かべた。

「圧倒的に女性が多い場所だから、僕たちはちょっと緊張しちゃいますね」

尊い。作品も本人も俺のオアシス!

 

 

むに
むに

ここでは全て自分でやると決めていた。

他の本は従者に買わせていたが、財布を取り出して一万円札を出す。

丁寧に本を重ねて差し出してくれたその手をみつめ、両手で本ごと掴む。

「終わったらお茶会するので、貴方にも来てほしいです」

顔を赤くしながら慣れない言葉で言うと、青年は目を細めた。

 

うさ
うさ

東京の街を一望するホテルのパーティールームで、三段重ねの皿がうやうやしく運ばれてくるハイティー。参加者の萌え話を邪魔しない音量で奏でられる、カルテットの調べ。

青年は花びらのようなティーカップに恐る恐る口をつけた。

石油王が隣に座る。

「先程は一万円札を出してしまい、失礼致しました」

 

むに
むに

お釣りはいらなかったのだが、青年は受け取らずきっちり計算をしたのだった。即売会ではなるべくお釣りがないように渡すのがマナーだと知り無作法を詫びる。

「いえ、気にしないでください」

場違いな場所に呼ばれさらに小さくなっている控えめな姿に、覚えたての言葉を胸で唱えた。

推ししか勝たん!

 

 

うさ
うさ

「いつも素晴らしい作品をありがとうございます。このように直接お話ができるなんて、夢のようです」

「あ、ありがとうございます」

首まで赤くして俯く青年の顔をのぞきこんだ。

「次の新刊のご予定は? 私は待ちきれません。冬コミですか?」

「次は春庭です。冬は会社の決算があって忙しいので」

 

むに
むに

「会社の決算とは、そんなに忙しいものなのですか? 私はもう、待ちきれないのです」

石油王は切実に訴えた。

「ええ……仕事をしなくては、本を作ることが出来ないんです」

「そんな……私は待てません! あなたに直接お会いしたことで我慢できなくなりました」

青年の手を握って見つめた手が熱い。

 

うさ
うさ

青年が逃れようと身をよじったとき、石油王は心の奥底に秘めていた思いをぶちまけた。

「私の専属作家になってください!」

会場は水を打ったように静まり返ったが、石油王は青年の目だけを見て、熱っぽく話し続ける。

「執筆以外のことは、すべて私に任せてください。あなたの作品が読みたいのです」

 

 

むに
むに

会場は歓声や悲鳴が飛び交い、遠くから「私が代わりに行きたい」「石油王に玉の輿…」などと聞こえる。

呆然とする推し作家を有無も言わさず連れ出し、自家用機応接室のソファに座らせる。

「何も心配しなくていい」

「いや、あの……帰らなくては……」

「全て私が手配します」

 

 

うさ
うさ

既にプライベートジェットは雲の上を飛んでいる。

石油王は金色のシャンパンを飲むのも忘れ、過去作品全ての感動と感想をまくし立てていた。

「読み返すたびに新たな発見と感動があるのです! 次のページからは切ない展開だとわかっていても読んでしまう。あなたの作品に救われる人はたくさんいる!」

 

 

むに
むに

「自分の作品をそんな風に思ってくれる人がいるなんて…」

毎日の生活で擦り切れた心を繕うために創作をしていた。腐男子なんて言葉を自分で使うほどの強さはないから活動は秘密だ。

もしかしたら神様がチャンスをくれたのではないかと青年は思った。

「創作活動に専念していただきたい」

 

 

うさ
うさ

石油王の瞳に、推し作家はうなずいた。

「書きたい話はたくさんあります。創作に打ち込みます」

その答えを待っていたかのように、自家用機は空港に着陸した。

タラップの下には大きなリムジンが待ち構えていた。ソファのような座席に座り、ウェルカムドリンクを飲む間に入国審査は済まされた。

 

 

むに
むに

空に浮いているようなベッドで目覚めると、付き人に手伝われて朝の準備を整え石油王と朝食をとる。食事以外は自由にできる。仕事に行かなくてもいい。青年は執筆に取り掛かった。

石油王は推しの青年が居ることで日々が薔薇色だった。青年には最高の環境を与え、最高の作品が生まれる予定だ。

 

 

うさ
うさ

青年は庭を散歩した。

広大な庭の一部に、日本庭園が造られていた。岩肌を白糸のような滝が流れ、錦鯉が泳ぎ、睡蓮が浮かんで、赤い太鼓橋が架かる。

「こんな庭が見える料亭で、もし受がお見合いをしたら、攻はどんな行動をとるかな。そもそも、なぜ受はお見合いをしたんだろう。潜入捜査かな?」

 

 

むに
むに

橋の上にいる青年を見つけ、石油王はそっと近づいた。

薄く透ける上着が青年をより華奢に見せている。その姿に思わず後ろから抱きしめてしまった。

青年は急なことで反応出来ず硬直しているが、(お見合いにきた石油王の攻に見初められる受け庭師とか?)と妄想し、初体験の抱擁に体を熱くした。

 

うさ
うさ

青年のぎこちない反応に、石油王は顔をのぞきこんだ。

「僕、慣れてなくて。たくさんBLを書いているけど、実際の経験はあまりないんです」

「では、創作の役に立つように、私に恋人役をさせてください。デートをして、愛の言葉を交わし、見つめあって、胸をときめかせましょう」

 

 

むに
むに

その日から執筆部屋は見たことがないような花が沢山飾られ、石油王から毎日、愛のメッセージカードが置かれた。リムジンでは抱かれるようにピッタリと肌をよせ会話は耳元でささやく。常に石油王の視線は青年の姿だけを追った。手をとり「貴方は私の全て」と真っ直ぐに瞳を合わせた。

原稿が出来た。

 

 

うさ
うさ

「素晴らしい。リアリティが増して、より一層、没入感が得られる。今までの作品で一番幸せな展開だ! すぐ絵師さんに表紙と挿絵を依頼しましょう」

神絵師のラフが届き、感動に打ち震えているうちに完成データが送られてきて、青年と石油王は画面に向かって祈りを捧げた。

「さあ、入稿です!」

 

 

むに
むに

青年はほっとしてソファに横になる。

「表紙などの指定は私がしましょう、今までにない仕上がりになりますよ」

「お任せします」

石油王の作品に対する熱心さに青年は複雑な気持ちになる。愛を囁くのは作品のため、やさしく肩を抱くのも花を飾るのも作品のため……か……。

 

 

うさ
うさ

作品を見込まれて、執筆のためにここにいる。衣食住すべてが望み以上のものを与えられて、高額な支援金を受け取っている。

「幸せな環境だと思うんだけどな」

胸の奥がトゲで刺されたように痛む。

華やかな暮らしと、小さな痛み。

ソファに倒れたまま、テーブルに飾られたバラを見た。

 

 

むに
むに

明日はイベントに出るために日本へ行くという日に、出来上がった本の一部が届いた。それには箔が押され表面は全体にやさしく七色に光っている。手触りも紙の厚さも『薄い本』とは言えない仕上がりだ。

「こんなにキラキラなっ……」

嬉しいのと大袈裟で恥ずかしいのが同時にやってきて言葉が途切れる。

 

うさ
うさ

「作品に相応しい表紙になったでしょうか」

石油王は青年の肩を抱いて、少し不安げに顔をのぞき込む。青年は新刊を胸に抱いてうなずいた。

「表紙負けしています」

「ご謙遜を。作品と表紙の相乗効果で素晴らしい本になりました。イベントが楽しみです」

髪にキスを受けて、青年はうつむいた。

 

 

むに
むに

「こんなにすごい本なのに、こんなにお安くていいんですかっ?!」

冬コミのブースは机半分。机一つとって壁にと言われたが、それは絶対にムリと断った。

ニコニコと念願の売り子をする石油王は

「とても素敵な本ですよ」と一人一人握手までして、青年もその流れで握手をする。

 

 

うさ
うさ

いつも通りの告知しかしていないのに、スペースの前には見た事のない行列ができていた。

石油王は豪華な無配やお菓子を手渡し、握手をして、笑顔を振りまく。

怯むほどあった在庫が、みるみるうちになくなるのを、青年はぼんやりと見ていた。

お迎えされた本は、僕の作品は本当に読まれるのだろうか?

 

むに
むに

冷静になって自分の格好を見ると、勘違いしてるようにしか思えない。コスプレはダメだと言ったのに「普段着だから」と着せられた石油王の国の刺繍が入った豪華なコートに、頭には布まで被っている。

それらを脱ぎ捨てそっと会場を抜け出し、暗くなった見慣れた街を見たら涙が溢れた。

 

うさ
うさ

完売後の撤収は従者に任せ、後を追って来た石油王は、青年の頬が涙で濡れているのを見た。

「ごめん。僕は仕事をして、疲れた頭と荒んだ心のためにBLを書いて、自分で本を作って売らないと、納得できないみたいだ」

青年は話しながら、この涙の半分は創作。もう半分は恋によるものだと自覚していた。

 

むに
むに

暫く横顔を見つめていた石油王は

「私が舞い上がってしまい、貴方の気持ちを確認しなかったのは申し訳なかった。創作活動をするために元の生活が必要ならばそうしてもらうのが一番いいでしょう」

と、あっさり青年を日本の生活に戻らせた。青年も何事もなかったかのように振舞い、仕事をし創作をした。

 

うさ
うさ

木造二階建てのアパートで寝起きし、創作を楽しみに会社へ行き、隙間時間にスマホへ小説を入力し、帰宅したらパソコンに向かう。

「追いかけてももらえなかった」

今まで書いてきた攻や受も、こんな気持ちを味わったのかな。

気分転換に部屋を出ると、引越しのトラックへ荷物が積み込まれている。

 

むに
むに

「最近、引越しが多いな」

気がつくと隣も下の住人も居なくなっていた。

ある日大家さんから、建物の大掛かりな工事と外壁の張り直しをするので、騒がしくなるとの連絡を貰った。

仕事の時間が長いし、帰りはどうせ遅いし。

あの人からは連絡もないし。

創作するだけの毎日だから気にしなかった。

 

うさ
うさ

「この区画全体を工事している?」

洗濯物を干すためにベランダに出たら、見渡す限り更地になって、基礎工事が行われている。

「このアパートだけ立ち退かなかったのか」

新しいマンションが建って、自分の部屋に日が差さなくなったら嫌だな。

アパートの住人たちは、それが嫌で退去した?

 

 

むに
むに

どういうことか、道路の形まで変わっているように思える。

「大家さん、なんで立ち退かなかったんだろう?」

ベランダから室内をあらためて見回す。あの柔らかい絨毯敷の執筆部屋よりも全然狭い。それでも居心地のいい僕の城なんだ。

石油王の眼差しを思い出し、俯くメガネに水滴が溜まった。

 

うさ
うさ

真っ白な外壁があらわれるにつれ、あの広大な邸宅に住む石油王を恋しく思うようになった。

しかし、出会った日から別れる日まで常に一緒にいて、必要がなかったから、連絡先は交換していない。

「また彼に会いたい。僕はなんてワガママなんだろう!」

メガネの水滴を拭いていたら、チャイムが鳴った。

 

 

むに
むに

「何か荷物頼んだっけ……」

尋ねてくるような友達も心当たりはない。インターフォンなど付いていないドアを少しだけ開けてみる。

そこには恋しくて会いたくて仕方なかった石油王が、青年の背丈ほどある大きなバラの花束を持って立っていた。

「遅くなりました、ずっと会いたかった……」

 

 

うさ
うさ

「縮尺がおかしい!」

見たことない大きさの花束を抱き、青年は笑ってしまった。

花が天井や壁につっかえている様子を見て、石油王も照れ笑いする。

「私の愛は、この部屋には大きすぎるようですね。新居に飾りましょう」

「新居?」

「ええ。あなたの創作環境を変えないように、私がここに来ました」

 

 

むに
むに

「ここに来る? 新居?」

青年は潤んだ目をぱちぱちさせて石油王を見つめた。

「さぁ、あなたの部屋も私たちの寝室もあります。あなたの好きな庭もたくさん作りました。きっと気に入ってくれると思います」

石油王は青年の肩を抱いて、青年はふわふわとした足取りで狭い廊下を見つめ合いながら歩く。

 

 

うさ
うさ

アパートの廊下の先は大理石の廊下に繋がってい青年はぐるりと周囲を見回した。

「アパートが丸ごと飲み込まれてる!」

真っ白な外壁の一部に、ジグソーパズルのピースのようにアパートが嵌っている。

「あなたの創作環境はそのままです。これから素晴らしい作品を書き続けてください」

 

 

むに
むに

その建物を見て青年は笑いながら、ポロポロと涙を流している。

「もう二度と会えないと思ってたのに」

「貴方は私の全てだと言ったではないですか」

「あれは僕に執筆させるために言っているんだと……」

「私が口にすることは全て真実です。これからも貴方のことを愛し続けてもよろしいですか?」

 

 

うさ
うさ

「僕も、あなたのことを好きになっていました。会えない日々をつらい気持ちで過ごしました。ずっと一緒にいたいです」

真っ直ぐに目を見て、青年の言葉を聞き終えた石油王は、強く青年を抱き締めた。

次に見つめ合ったとき、二人はしっかりとうなずきあい、丁寧に唇を重ねた。

〈了〉

 

 

 

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